日野草城
表示
ひの そうじょう。東京都出身の俳人。
作品
[編集]草城句集「花氷」(昭和2年)
[編集]- 春の灯や女は持たぬのどぼとけ
- 春暁やひとこそ知らね樹々の雨
- ところてん煙の如く沈み居り
- 南風や化粧に洩れし耳の下
- 春の夜や足のぞかせて横座り
- 春寒や竹の中なる赫映姫(かぐやひめ)
ミヤコホテル連作「俳句研究」より(昭和9年)
[編集]- けふよりの妻(め)と来て泊(はつ)る宵の春
- 夜半の春なほ処女(をとめ)なる妻(め)と居りぬ
- 薔薇匂ふはじめての夜のしらみつつ
- 妻の額(ぬか)に春の曙はやかりき
- 湯あがりの素顔したしく春の昼
- 失ひしものを憶(おも)へり花ぐもり
昨日の花(昭和10年)
[編集]- 寒燈や陶は磁よりもあたたかく
- 白魚のかぼそきいのちをはりぬる
「ミヤコホテル」連作
- けふよりの妻と泊るや宵の春
- 春の宵なほをとめなる妻と居り
- 枕邊の春の灯(ともし)は妻が消しぬ
- をみなとはかかるものかも春の闇
- うららかな朝の焼麺麭(トースト)はづかしく
- 湯あがりの素顔したしも春の昼
- 永き日や相触れし手は触れしまま
旦暮〈あけくれ〉(昭和24年)
[編集]- 二上山(ふたかみ)を瞻(み)てをりいくさ果てしなり
- 山茶花(さざんか)やいくさに敗れたる国の
- かたはらに鹿の来てゐるわらび餅
- 暮れそめてはつたと暮れぬ秋の暮
- 片恋やひとこゑもらす夜の蝉
人生の午後(昭和28年)
[編集]- 寒の闇煩悩とろりとろりと燃ゆ
- 見えぬ眼の方の眼鏡の玉も拭く
- 高熱の鶴青空に漂へり
- われ咳す故に我あり夜半の雪
- 切干やいのちの限り妻の恩
銀(昭和31年)
[編集]- こほろぎや右の肺葉穴だらけ
- 誰(た)が妻とならむとすらむ春着の子
- 先生はふるさとの山風薫る