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美濃部達吉

出典: フリー引用句集『ウィキクォート(Wikiquote)』
美濃部達吉

美濃部達吉(1873年〜1948年)

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みのべたつきち、日本の法学者。

憲法講話

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  • 天皇は國家の最高機關なり。

選挙法概説

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  • 女子に選挙権を与ふべからずとする理由としては、二点を考へることが出来る。その一つは女子は本質上選挙人とするに適当ならずとする議論であつて、女子は本来家庭の人であるべきであり、公人として国の公務に参加することは女子の本分に反すといふのが、その思想の要点である。他の一つは時期尚早しとする議論であつて、女子の本質に於いては必ずしも選挙人たるに適しないわけではないにしても、現在に於いては、未だ女子の選挙権を要求する運動が強く起つて居るのでもなく、又一般に言つて女子の間には男子ほどに智識は普及して居らぬから、今日は未だ女子に選挙権を与ふべき時期ではないといふのが、その説の要点である。
     此等の二種の説は何も強い理由の有る説とは思はれない。就中女子がその本質に於いて公人たるべきものでないといふ思想は全く誤つた考へであると思ふ。封建的武力国家の時代ならば、女子はその体質に於いて武人たるに適しないから、女子が国の公事に関係しないことになるのは自然の結果になるが、立憲政治は文治政治であつて、主として智能の働きが重きをなすものであり、而して智能の働きに於いては女子は必ずしも男子に劣るではない。女子をして公事に参加せしむべからずとするのは、恐らく封建時代の残想に外ならない。寧ろ国家をして男性のみの国家と為さず、女性をも等しく国事に参加せしむる方が、国政を円滑ならしむる所以であると信ずる。殊に普通選挙を採用して苟も男子である限り、財産の有無も教育の有無も更に問ふ所なく、無差別に選挙権を与ふることとなつた以上、女子に対してのみ如何に智能優れ、如何に資産が有つても総て選挙権を与へないものとするのは、権衡を得た制度とは信ぜられぬ。寧ろ女子にも選挙権を与ふることの結果は、女子は比較的に保守的傾向の強いのを普通とするから、普通選挙が往々過激な結果を生じ易い傾きのあるのを緩和する効果があるであらう。

日本憲法の基本主義

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  • 日本憲法に於ける議会制度は、その第二院たる貴族院の組織及び権限に於いて、最も大なる特色を有つて居り、而してそれが又日本の憲法の中でも最も不出来なる部分である。若し明治維新の後まだ革新的精神の旺盛であつた時代に於いて、直に憲法の制定に著手せられたならば、議会制度の組織に於いても今日とは余程異なつたものが出来たであろう。若し又憲法の制定が十数年遅れて、二十世紀の雰囲気の中に憲法が成立したとすれば、其の結果は又必ず今日の貴族院とは著しく異なつたものを作ったに相違ない。不幸にして憲法は、明治維新の当時に於ける革新的精神の、既に全く失はれたとは言はれない迄も、甚しく薄らいだ後、未だ二十世紀の民衆的気分の一般に普及しない以前に於いて、維新の当時には改革の急先鋒であつたとは言へ、既に久しく権勢の地位に立ち、今は自らも貴族の階級に属して居る政治家に依って、立案起草せられたものであつて、今日の貴族院制度は実に此の如き事情の下に生れ出でた産物である。

引用元文献

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  • 美濃部達吉 著『選挙法概説』,春秋社,昭和4. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1269002 (参照 2025-07-27)
  • 『美濃部達吉論文集』第1巻 (日本憲法の基本主義),日本評論社,1935 3版. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1269779 (参照 2025-07-27)