太田水穂
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おおた みずほ。日本の歌人。本名:太田貞一。
作品
[編集]つゆ艸
[編集]- ゆく雲を見送るなべにその雲の行方もわかず日もくれにけり
- ほつ峯を西に見さけてみすずかる科野(しなの)のみちに吾ひとり立つ
- みそさざいまれに来てなく裏町のさぶらひやしき雪ふりにけり
雲鳥
[編集]- 何をかも夢みてさめし眼かひに熱き涙はたまりてゐたり
- 野毛山の異人屋敷に小米花まばらに散りて夏さやかなり
- 曇る日の枯野のまへに一軒の家の障子はとざされてをり
鷺鵜
[編集]- みんなみの海のはてよりふき寄する春のあらしの音ぞとよもす
- こがらしの吹ききよめたる朝空にはじけて梅の花しろく咲く
- 青き背の海魚を裂きし俎板にうつりてうごく藤若葉かな
- 僧ひとりひる寝してをり方丈の廂(ひさし)のうへのふかき青空
- 雷(らい)の音雲のなかにてとゞろきをり殺生石(せっしゃういし)にあゆみ近づく
螺鈿
[編集]- わが書斎立つと坐るとまかがよふ柚子の玉実のみえて明るき
- しろじろと花を盛りあげて庭ざくらおのが光りに暗く曇りをり
- 白王(はくわう)の牡丹の花の底ひより湧きあがりくる潮の音きこゆ
流鶯
[編集]- 命ひとつ露にまみれて野をぞゆく涯なきものを追ふごとくにも
- 風吹けば風ひと方に穂になびく薄(すすき)の上に富士をおく国
- 命ひとつ露にまみれて野をぞゆく涯(はて)なきものを追ふごとくにも
双飛燕
[編集]- はるけくも白馬(しろうま)晴れて見ゆる日よありかねて野の道に出できぬ
- ふるさとにわれより年のたけたるは一人もあらずあはれ一人も
- 誕生日青くあけゆく部屋へやの一つはすでに日のさしてゐし
老蘇の森
[編集]- おおい次郎君かく呼ぶこゑも皺枯れてみちのくまではとどかざるべし
- 日の道の低くなりゆくことすらや命にかけて寂しまるなり
- あゝ明治、東郷、原敬、三宅雄、夏目漱石、市川団洲